2003年09月25日

「月の森にカミよ眠れ」


日本児童文学者協会新人賞 amazon bk1
< 異文化を受け入れ、変容すること >

山のカミと人間の娘との間に生まれたナガタチは、人々に受け入れられないことをずっと、カミのせいだと恨んでいた。その恨みを晴らすときがやってきた。
小さなムラの月の森のカミを封じるのだ。しかし、「カミンマ」であるキシメは、ナガタチに問う。「カミ封じができるのか」と。ナガタチは、カミの力を受け継ぐもの。しかし、相撲をとったタヤタに勝つことはできなかったのだ。そのタヤタこそが、月の森のカミだったのだが。
キシメとナガタチは、互いの物語を交換する。ナガタチはその生い立ちを。キシメは、カミンマである意味とタヤタのことを。
 キシメは、カミ封じに心から賛成しているわけではなかった。だが、ムラで稲を作り租を朝廷へ納めるためには、カミの「かなめの沼」に手をいれなければならない。それはカミの怒りを呼ぶことなのだ。キシメは、タヤタ(月の森のカミ)とムラの間で揺れ動く。
 ナガタチは、キシメの揺れに腹を立てていた。ムラのためといいながら、タヤタのことを全く考えていないからだ。己のことしか考えていないと。しかし、それはナガタチも同じなのだった。ナガタチは、初めて「おのれのしたいこと」を理解した。キシメも、カミ封じを認めたのはおそろしかったからだとわかった。「カミンマ」の本当の意味を理解したとき、しかしもう遅かったのだ。

ムラの人々が朝廷の文化を受け入れなくてはならない状態になったとき、ムラの人々は苦しい決断を迫られます。「カミは、何のためにいるのか」その問いにキシメは、ムラ人たちを説得することができません。ムラの苦しみがぎりぎりと迫ってきます。体に刺青をし、誇りを持って朝廷へ出ていった男たちは、その文化の特異性に恥ずかしさを覚えるのです。そして、生活習慣を変えようとします。それもムラのことを思ってのことなのです。キシメやムラの人々、ナガタチがそれぞれに決断をしなくてはならない、追い詰められた中でタヤタは、静かにその決断を待ちます。「おれをうけいれるか」と。

最近サトクリフを読んでいたので、異文化の出会いとその変容を描いているところが、重なるなあと思いました。人の生き方も。うまく説明できないけれど是非読んでもらいたい物語です。

投稿者 yura : 2003年09月25日 18:32
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